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○○ママの好きなこと・大切なこと 母として専門家として伝えたい、インクルーシブな社会|北海道教育大学准教授 池田千紗さん

2025年8月5日 公開

北海道教育大学准教授
池田千紗さん

北海道教育大学札幌校で准教授として、発達障がいや作業療法の研究に取り組む池田千紗さん。8歳の長男と5歳の長女を育てながら、学校現場に作業療法士が入ることで子どもや先生をサポートする新しい取り組みを進めています。専門家として、そして母親として子どもと向き合う中で見えてきた育児の本質について語っていただきました。

Contents

1.日本の教育現場に「作業療法士」を導入したい
2.コロナ禍で見つけた「頼る」ことの大切さ
3.自らの育児で再認識した「特性」のこと
4.インクルーシブな場づくりで、社会全体をやさしく

日本の教育現場に「作業療法士」を導入したい

ー発達障がいの研究をされるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
私はもともと作業療法士で、発達障がいの子どものを対象とした分野や高齢者のリハビリ分野などさまざまにあるんですけど、私は前者を選んで勉強してきました。きっかけは、高校生の時にスウェーデンの学校で働く日本人の作業療法士さんが書いた本を読んだことでした。

ー学校で…ですか?
作業療法士は日本だと知名度が低いんですが、海外、特にアメリカ、カナダ、ヨーロッパの方だと学校現場で働く作業療法士さんの数が多くて、「学校作業療法士」と呼ばれる方々がいます。日本の場合は、予算といったシステムの面や先生が専門的なことまでこなす「何でも屋」になりがちなことから、導入が進んでいないのが現状です。

ー介護施設や福祉施設でリハビリやレクリエーションを指導する方…という印象でした
「作業」と呼ぶので少しわかりにくいのですが「サッカーをやりたい」「跳び箱跳びたい」「朝の準備をお母さんに怒られないでやりたい」「宿題がつらいから楽になりたい」…要するに何でも良くて、その人が実現したいこと、楽にやりたいこと、大切にしたいことを、どうやったら上手く実現できるかを一緒に考える仕事なんです。

ー現在はどのような研究をされているのですか?
端的にいうと、前述のように「学校作業療法士」の導入を進めることです。現在は当大学と札幌市教育委員会との連携で、試験的に小学校の先生たちと協力しながら、作業療法士としての観点で子どもたちへの指導方法を考えるということをやっています。
例えば「授業に積極的に参加してくれない」「教室を出て行っちゃう」など、教育現場目線での困りごとから解決の糸口を図ります。授業ができないと先生も困るし、うまく参加できないお子さんや親御さんも困ってしまいますよね。あとは、運動や遊びをまじえたワークショップ、発達障がいを理解してもらうための活動も行っています。

▲これまで4冊の本の出版に関わっている池田さん。一部は中国語に翻訳され海外でも活用されています。

コロナ禍で見つけた「頼る」ことの大切さ

ーここからはご自身の子育てについて伺っていきます。今はお二人のお子さんがいらっしゃるとか
2017年に長男を、2020年に長女を出産しました。今は上が小学2年生、下が年長さんです。

ー大変だった時期はいつでしたか?
下の子が生まれた時はコロナ禍で、産後5ヶ月で職場復帰をしたものの大学の講義が全てオンラインに切り替わってしまい…。自宅でオンライン用の講義動画を作らなきゃいけないんですが、起きてる時間だと育児で中断してしまうので、子どもが寝静まった時間しか録れなかったんです。それも大学の講義は90分ありますからね…一度で撮りきれず、朝3時とか4時とかに起きて制作してました。体力的にきつかったですね。

ー育児をする中で変化したことは?
「切り替え」ができるようになったことかなあ。それまで論文や原稿を書いたりする時って、他にやるべき事を済ませた状態でグッと集中して書いたり、データを分析したりしてきたんですが、子どもが生まれたら全部が中断されて細切れになっちゃいますからね。あと、保育園も積極的に頼るようになりましたね。

ーそれまで頼らなかったんですね
保育士さんへ気を遣っちゃうタイプだったんです。でもある時、自分が研究の中で「専門家と連携しましょう」とか言ってるのに、自分ができていないなと気付いて(笑)。保育士さんは子育てのプロなので、悩むよりも聞いた方が早いんですね。だから、どんな小さなことでもすぐに聞くようになりました。あんまり細かいことに思い悩んでいる時間はないですからね。「子どもが無事ならそれでいい」ぐらいの気持ちじゃないといけないなって。

自らの育児で再認識した「特性」のこと

ーお仕事への影響はありましたか?
それぞれの子どもに、ご家庭に歴史が、いろんな積み重ねがあることを実感しましたね。当大学は小学校の先生を目指す学生さんが多いんですけど、小学校の先生が出会うのって、一番幼くても6歳ぐらいの子どもたちじゃないですか。その年齢に至るまでの積み重ねをきちんと聞いたり、理解したりしないと、保護者さんと協力関係になれないと感じています。
出産そのものがすごいドラマですし、幼児期も色々な出来事があって、やっとのことで小学校にあがっている訳です。そこを学生さんたちに理解して欲しいなって。あと、親御さんはものすごく心配性であることも学生たちに伝えるようになりました。私も保育園や学校でプールや遠足がある日はソワソワしています(笑)
ー専門家として子どもと関わってきた中で、ご自身が出産して感じたことは?
発達障がいは生まれながらに持つ特性なんですが、未だに「きちんとしつけをしてないんじゃないか」という偏見が根強くて、実際に悩みを抱えている親御さんが多くいらっしゃいます。自分が子どもを産んで実感したのが、まさに「生まれつき」であること。ウチも2人を同じように育てているのに、全く性格が違うんですよ。特に下の子は大変で…(笑)
ーどんな性格なんですか?
感情の波があって、怒ったり泣いたり、自己主張が強いタイプです。「女の子は育てやすいよ」なんて聞いてたのに…(笑)。成長を見守りつつ、今は保育士さんに相談しながらなんとか向き合っています。

▲障がいの有無にかかわらず、誰もができるスポーツの体験や啓発の機会も開催しています(ご提供画像)

インクルーシブな場づくりで、社会全体をやさしく

ー先輩ママとしてアドバイスをお願いします
よく「可愛いのは今のうちだけだよ」「今が一番可愛い時期だよ」みたいに言われるじゃないですか。でも、どんなに大きくなっても「今が一番可愛い」というのが私が日々思うこと。そのぶん、大変さもそんなに変わらないんですけど(笑)
年齢ごとにやっぱりいろいろ悩みはありますよね。小学校にあがっても、学校の持ち物とか宿題とか提出書類とか心配ごとが絶えません。でも、可愛いからこそ頑張れると母として思います。
ー専門家として、今後世の中がこうなったらいいと考えていることはありますか?
私は地域のお子さんや障がいのあるお子さんなど、全ての方をまじえたインクルーシブな遊びの場やアダプテッドスポーツ(障がいの有無にかかわらず参加できるスポーツ)体験の場を設けています。ウチの子たちも0歳から参加して、支援学校のお兄さんに面倒を見てもらったり、学生さんが使用している車椅子に一緒に乗らせてもらったりしてきました。
我が子を見ていて実感したのが、子どもたちは障がいのある、なしに関わらず、フラットな気持ちで見てくれているということ。ある時、報道の方がウチの子に「大変じゃなかった?」と質問してきたんですよね。たぶん「車椅子の人の大変さを実感した」みたいな言葉が欲しかったんだと思うんですけど、ウチの子はいつも乗ってるから「いつも通り楽しかったです」みたいに言ってて、すごくその感覚がいいなって。
ーそれは興味深いですね
小さな時から障がいのある方と接していると、それが当たり前になるんですよね。子育て環境にこうしたインクルーシブな機会があると、大人になってもフラットな目線で考えて、世の中がより良くなるんじゃないかな、きっと社会全体の意識も変わっていくんじゃないかなって。だから今後もお仕事を通じて、こうしたインクルーシブな場を次々と設けていきたいですね。
ーありがとうございました!

北海道教育大学准教授
池田千紗さん

池田さんの最新の活動については、教育大/特別支援教育専攻で運営している「ほくとくネット」のWEBサイトから確認できます!
WEBサイト:http://nc3.hokutoku.net/